2016. 04. 03  
大阪市営地下鉄、東梅田駅。
停車している電車にパンパンに詰められた人、人、人。

次の電車を待つ人も数多くいるが、彼はその死地に飛び込んだ。
華奢な体の彼は、ただただ押し潰される。
若いお姉ちゃんなら笑顔になろうが、車内の大半はおっさんサラリーマンだ。

彼は天井を見上げ、皮肉交じりの満面の笑みで呟いた。
「これが毎日続くんやな。最高やないか…」

彼の名は、円谷夏生。
それなりの大学を出て、それなりの企業に入った、至って平凡な新卒1年目のサラリーマンだ。

 それから2時間後。
円谷は、入社式をこなし、挨拶回りをしていた。

約20名の新人が幾つもの部署を回る。
2列に整列し、進む姿は、ドラクエのパーティ移動だ。


挨拶回りが終わり、彼ら彼女らゆとり新人たちはそれぞれの部署に派遣された。
 円谷は、父親の年齢の男性が多くいる前で、娘さんを僕にください的なテンションで挨拶をした。
「円谷夏生と申します。不束者ですが、どうかよろしくお願いしますっ」

課長が、彼の傍により、
「元気があるのはよろしぃっ」
と声をかけ肩を叩いた。
彼は安心した表情で心底喜んでいる。

「とりあえず座ってよ。」
直属の上司から声をかけられた円谷は、ガッチガチに緊張しながら椅子に座る。

すると、お姉さんがやってきた。
「コーヒーいれよっか?」
大人の色香を漂わせ、彼に一声かける。

「お、お気遣いありがたく存じます!」

「砂糖とか入れる?」

「は、はいっ!入れてください!」

「はーい。」

彼女はしばらくして、コーヒーを持ってきてくれた。
「ありがとうございます!」

彼女は、円谷をいなかっぺの小僧と判断したのだろう。
横にシロップとミルクが、2つずつ添えられている。

彼は少し戸惑った。
内心シロップ3つくらい欲しいと感じているが、これから社会人として立派に働くためには舐められるわけにはいかない。コーヒーもストレートで飲めないで何が、サラリーマンだ。

一個で良いと判断したのか彼は、シロップとミルクを一つずつ入れて、コーヒーを口にした。

彼は苦悶の表情を浮かべ、こっそり、二つ目のシロップとミルクを入れた。
「この甘さが一番」
コーヒーを味わう表情からそんな思いが滲み出ていた。

彼がコーヒーを人並みにたしなめるにはあと100万光年は必要なのかもしれない。
なにせ舌が赤ちゃんなのだ。出川哲郎もびっくり。


その後、彼は上司から仕事内容の説明を受けていた。

「なるほど!なるほど!」
彼は返事だけはいい。

が、あまりわかっていない。
だから、何度も繰り返し、説明を求める。

彼は、やる気はあった。だが何すりゃええかが、わからないようだった。

そうこうしているうちに初日が終わった。
円谷以外多くの社員は残業していたが、彼は帰宅を許可された。
「今後ともよろしくお願いします!」

彼は、挨拶だけはしっかりしていた。
むしろ、ゆとり世代と侮られないためにも、元気いっぱいぶつかっていくことだけを考えていた。


大学4年間を、楽勝に生活していた彼にとって、社会人初日は疲労の田丸一日だった。
憔悴した彼は、よれよれと梅田を歩く。
やたらカップルちっくにいちゃいちゃ男女2人で歩く新卒社員らしき人とすれ違う度に、嫉妬心を抱く。
「不公平な世の中だ」
そんな不満を無意識に感じた瞬間、あいつの言葉が脳裏に浮かんだ。

「他人と比較するな」
彼は心機一転し、お気に入りの曲をイヤホンで聞く。爆音で流れるミュージックに乗り、
人混みの梅ダンジョン(梅田の地下街)を駆け抜けた。

彼は、月曜日からしっかり働いていけるのか?
不安しかないが、彼の眼だけはぎらついていた。
「ゆとり世代の本気ってやつを見せてやりたい」彼はそう呟いた。

To Be Continued
2016. 04. 09  
4月2日、初めての休日。

円谷は朝から6弦を揺らす。

ジャカジャカジャカーン
大してうまくもないギターにのせ、風邪気味の鼻声で懸命に声を振り絞る。

自作の新曲を作っているらしい。誰が聞くとかは関係ない、ただメロディが浮かぶから作っている。
生粋のシンガーソングライターだ。

他の新卒はこの初めての休日をどう過ごしてんだろなあ
が、彼の頭にふと不安がよぎる。

「明日仕事行っても何をすればいいのかわからん」
慌てて、勤務初日のメモを見返した。
それをまとめてノートに書いていく。

初日に聞いたことは、次までにできるようにしておきたい。

以前の彼は出世欲は皆無だったが、入社すると違った。

「どうせなら登りつめたい」
そんな闘志が湧いた。

だが、彼には能力はない。

円谷夏生という男は、不器用だ。気が利かない。機転が回らない。単純作業だけが得意なのだ。

要領よくしたいと思っているが、うまくいかないのがわかっている。
ならじっくり時間をかけてコツコツ努力するしかない。

彼は地道にメモを見返し、業務内容をシュミレートした。

彼は元来こんな人物ではない。
仕事、めんどい。
ニートがいい。

一生自分の好きなことに時間を費やして、勝手にお金が入ってくるような生活がしたい。
つい1週間前までそう思っていたのだ。

そんな怠惰な彼を変えたのは何か。
何が原動力なのか。

上司に褒められたい。
同僚から尊敬されたい。それもあるかもしれない。しかし、1番の彼の原動力は反骨心だ。

「あの新人使えないな、これだからゆとりはだめだ。」
そう思われたくなかった。閑職につくのは嫌だった。

「あいつ凄いぞ。」
人から信頼されたかった。

そして、ガンガン出世してみたかった。

自分が不器用で能力が低いことは知っている。
ただ、だからといって諦める理由にはならない。

差を補うためには何でもしてやろう。
もっともっと働けるようになって出世してやる!


To be continued...
2016. 04. 09  
オフィスとは戦場なのかもしれない...

配属2日目、円谷はもうすでにパンク寸前だった。

課の中でゆとり新卒の彼だけが慌てて必死になっている。

必死になっているからといって仕事ができているわけではない。
周りの人は落ち着いて効率よく作業を進めているようだ。

「この書類作って?」
「この件の進捗状況は?」

幾つかの作業を進めるが、基本、何が何だかよくわからないが、前任者のメモと係長の助言でなんとか作業を進める。

大概の同期が、2人一組で部署に配置され、仲良くペア働きしてるのに、円谷は1人で部署に配置された。前任者の仕事も残っていたため、配属2日目から書類作成に取り組むなど、戦力になれているかはわからないが一応働いている。

新人なので同期同じところに配属されて、安心して働きたい。
彼はそう感じていたが、アルバイト時代の先輩からの助言は彼に大きな影響を与えた。

「1人配属は、ほんまに期待されてる証やと思う。実力云々ではなく、この子は1人で配属しても、上の人とうまいことやっていけるって思われたからそうされてる。」

先輩の助言とエールを胸に、円谷は1人配属を人事からの期待と前向きに捉えた。
むしろ、全体的に年齢の高い課に配属されたことは、人生経験豊富な先輩から多くのことを聞ける、学べるチャンスだった。

余談だが、彼の母も新卒時代同期の中で1人だけ1人配属だったらしい。円谷も円谷の母も'楽天家の喋り屋'だからだろうか。


書類作成に追われる彼には仕事中、ひとつだけ誇れる時間があった。

電話対応するときだ。社内の内線、社外から、幾つもの電話を受けるだけで、自分がオフィス人になった実感を感じる。普段、自分の携帯にはめったに連絡が来ないのに、社会人は違う、かっちょええと彼は喜んでいるのだ。


昼休み、円谷は2人の上司にカレー屋へ連れていって頂いた。
彼のついていき方は絶妙だ。

上司2人が前を歩く後ろをちょこんと尾行する。はなれすぎず、つきすぎず。
40代の中堅社員の後ろにリスのように(顔はそんな可愛くない)ちょこちょこついていく円谷。

彼は、カレー屋へ行く途中、幾つかの気になる飯屋があった。むしろ飯屋のカレーは甘党の彼にとっては激辛フードだったのだ。

しかし、変に気を使う彼はそんなことは口には出さない。
「カレー楽しみっす」とヘラヘラしている。

案の定、飯屋のカレーは甘口やのに辛かった。円谷の舌はやはり赤ちゃんだ。

コーヒー飲めない、カレー甘口さえ厳しい、彼はいつ大人の味を知れるのか...

午後の勤務を終えた彼は、無事、定時で退社できた。
周りの社員は殆ど帰っていないので心が痛む...

「新人の俺が生意気に定時退社していいのか?」
しかし、上司は優しくええでと言ってくれるので、彼はお言葉に甘えた。

残ったところで業務内容を理解しきっていない彼では生産性が低すぎるのだ。

しかし彼には定時退社であっても、相当疲労を感じていた。瀕死だった。

「月曜日でこの疲れか、あと4日やってけるのか?」

彼は帰路で不安になる。

PC画面とのにらめっこに疲れ目の境地。
往復3時間通勤の気だるさ。

唯一の救いは、実家暮らしなので、家に帰ると飯があり、洗濯など炊事は全て親に任せられるということだ。

「一人暮らし早くしてぇよ」
と思っていた円谷だが、定時退社でこの疲れでは家事をする余力などないであろう。

「社会人って大変やなあ」
彼は社会の厳しさに早速打ちひしがれた。

大学生活があまりに楽すぎたその代償なのかもしれない。

つい1週間前に友人に、恋や愛について熱弁をふるった彼もいまではそんなことを言う余力はない.....
街で可愛い女の子とすれ違っても諸行無常、無だ。

無類の漫画好きの彼だが、ジャンプを立ち読みして帰る力も無かった。

だが、彼は疲労困憊でも魂の火だけは絶やしていなかった。

このままで終わってたまるか!
もっともっとしっかり働きたい!


「今のままの'何すりゃええかわからんから前任者の資料みてなんとなく進める'状態から早く脱却しねえと!
人事評価次第で給料にも昇進にも差がつく。やるぞ、俺はやってやるぞ!!!」


To be continued...
2016. 04. 10  
勤務3日目。
円谷はかつて無い爽やかな充実感で勤務を終えていた。

勤務はかなりしんどかったのだが、なぜか疲労感はあまりなく、謎に元気だった。
鼻歌交じりにスキップなんてしちゃってる。

当然シラフだ、怪しい、警察につきだそうか...

自分だけが毎日定時退社することに申し訳なさを感じていたが、
まだペーペーの新人が居残って生産性のある仕事ができるわけでもない。

「お先に失礼します!」
帰宅時、課の皆さんに込める挨拶に思いを込める。

彼は今日の業務で少し大人になった。綺麗事では済まされないことも知った。
課ごとに分かれた組織の問題点をみた。

入社3日目にして、他の課の人に意見もした。
それが彼の信念だ。

正しいと思ったら口にしないとすまない。
そんな思いは直属の上司に肯定された。
若い頃はぶつかっていくことも大切。と言われたのがとても嬉しかった。

仕事自体は忙しい。
提出書類や、他の課との連携。前任者と電話で連絡して質問したり、アワアワしっぱなしだ。

だが、円谷はその忙しさに充実感をほんのり感じた。
いろいろすることがあってそれを順番に潰していったり同時進行で進めるのが、楽しく感じる時があった。
生きてるっていう実感ってやつなのかもしれない。



彼は、帰りの電車で会った就活生の後輩に入社3日目の分際で生意気ながらアドバイスした。

「直属の上司と仲良くできるかどうか。これが1番大事や。

就活のときはさ、業務内容も大切やけど、企業内見学とかして、働いてる人の雰囲気とかその人らと馴染めそうかを1番みたほうがええと思う。

基本文系の俺らが出来る仕事自体は、単調やし、新人のうちはとくに単純業務が多いから対人関係が大切やと思う。」


To be continued...
2016. 04. 11  
円谷夏生。
ゆとり世代ど真ん中の新卒社員だ。

彼は以前、生命保険の綺麗な姉ちゃんに勧誘されデレデレの同期にこう言っていた。

「生命保険の姉ちゃんなんてな?
たとえ可愛くてもぜってぇ彼氏おるからな?!

てか美人なんて基本男おるっ
顔に惑わされて保険相談に誘われるなんてあかんっ」

ある日、エレベーター近くで、円谷の好みどストライクのお姉さんが立っていた。
真ん中高めの甘いスローボールより好きだ。

彼はそのお姉さんの前を不自然に2往復してから、たまらず声をかけた。

「あのっ、医療保険とかやってるっすか?」
「やってますよー!興味あるんですかあ?」


「そ、そっすね!」

保険なんてどうでもいい、彼はお姉さんに夢中ですというニュアンスで伝えたつもりだったが、お姉さんは違う捉え方をした。

「そうなんですかー!医療保険のパンフレット渡しますねー!」

「保険なんてどうでもいいんです!
お姉さんライン教えてください!」

なんてナンパは、彼にはできない。
社内でナンパ師とあだ名されたくはないしそんな度胸もない。

円谷は終始デレデレした気持ち悪い笑顔で、お姉さんの顔をチラ見しながら

「そっすね!」
を繰り返していた。

話の内容は円谷には殆ど入っていなかったが、
上目遣いでとき放たれたこの言葉は彼の胸をえぐった。

「勤務終わる時間って何時くらいですかああ?」

ビリビリビリッ
彼の体に電気が走った

円谷はハイテンションで答える

「定時っすね!
定時!
毎日定時っす!
18時前っすね!」


アフターに会おうなんてデートやないかい
彼はそう思い喜んだのだ。


するとお姉さん
「勤務後にお時間頂いて、保険についてお話ししましょう。」

あかん、あかんやで
円谷は冷静になろうとした。
あんな綺麗なお姉さんと2人きりで話せるだけで、彼は舞い上がってしまう。

たぶん、何を言われてもイエスと言わされ保険に加入させられるのだろう。

「まっ、また今度お願いしゃっす!」
彼はなんとか話を切った。

するとお姉さんは言う。
「明日詳しいパンフレット持ってきますねー」


円谷は悩んだ。

保険入る気なんて、一切ない。
それでなくとも薄給やのに保険代なんて払ってられっか

ただ、あんなタイプの美人と話すチャンスなんてまあない。
お姉さんとは話したいし、あわよくばつきあえちゃったらぐぅ嬉しい

あわよくばというのは、円谷のようなモテない男の生命線である。
この僅かな可能性が、女子から恋愛対象外にされまくる日常に光をくれた。



彼は上機嫌で、外で昼ごはんを食べてからまたエレベーター前に帰ってきた。

そこで目にした滑稽な光景は彼を正常に戻した。

円谷と似た顔をした冴えない男が、にんまりデレデレした顔でお姉さんと話している。

なんじゃありゃっ?
だっせぇっ、かっちょわりい

円谷は気づいてしまった。
「俺たちはあの美人のカモにされてる...

甘い顔に騙されて、2人で保険相談とかあわよくばと、俺たちをおびき寄せ保険を締結させて、あとはオサラバ。
こうやって、カモにされていくんか」

たぶんあのお姉さんは、仕事後、同僚と
「今日も新卒のカモどもを釣ってやったわ。私の美貌にかかりゃっイチコロよ。
ただ、どいつもこいつもデレデレ話してほんとないわー」

とか言ってるんかもな,

可愛さっていうのは恐ろしい

彼は始めて美貌が男にとっての凶器になりえることを知った。


にゃろう...

円谷は悔しくなった。
そして、お姉さんの前に行き、睨んでやろうと思った。
こう叫びたかった。

「可愛いからって、可愛いからって、
保険なんて入らねーからな!」


スタスタスタスタ、
彼は1人になったお姉さんに近づいた。

円谷を見つけ、笑顔で会釈をするお姉さん。

円谷は頬がふるゆあらっあっと緩んだ


「ちーっす!」

笑顔で会釈した....


ば、バカヤロー



To be continued...
プロフィール

神戸のルパン

Author:神戸のルパン
このブログでは小説を連載したり、
日々気になったことを記事にしています!

小説のタイトルは、「俺たちバグジー親衛隊」
楽しく生きよう!と思える、明るい作品です!
会話が多く、気軽に読める作品で、毎週金曜日に1話ずつ更新します。

1話完結が基本なので、何話からでも読み始めることができます!

<あらすじ>
 毎日をバカらしく生きた高校生のドタバタ日常ほんわかラブコメディ!
電車で謎のおっさんに殴られる。旅館の浴場に温泉の素を投入。迷子の末、線路を爆走…
  主人公は高校デビューを決意した、冴えない高1とっしー。親衛隊(友人たち)の助言を得て、様々なおバカ活動により垢抜けていく。
 浅倉さん、謎の美女レベッカとの出会いはさらなる波乱を生み…!
 次々と起こる謎イベントや、とっしーの恋のゆくえ!果たして物語はどう転ぶのか?
 読むと「っふぅほわっ」とした気分になり、人生が楽しくなる!?
 現代日本に送る「愉快痛快日常コメディ」

 ぜひ一読してみてください!

また金曜日には稀に、俺たちバグジー親衛隊の続編「俺バグ延長戦」を更新しています。こちらは、社会人となった主人公とっしーが、何を考えどう生きたかが描かれています。おなじみ、親衛隊メンバーとのおバカな掛け合いは健在ですが、高校生編よりも真剣な展開が多いです。

金曜日の「俺たちバグジー親衛隊」がみなさんの週末に欠かせないものとなり、
「今週もよく頑張った!また明日から頑張っていこう!」
 と思え、読んだ人々の心が軽くなって笑顔になる作品を執筆していきます!

 物書きとしては初心者で、稚拙な表現も多々あります。
 感想や指摘点はコメント欄でどんどん教えてほしいと思っています!
 物語の完結まで、一生懸命執筆しますので、応援よろしくお願いします!

また、他にも音楽や、サブカルチャー、社会問題への提言など幅広い話題の記事をアップしています。よろしくお願いいたします!
 夢は、書籍化→映画化!!!
日本列島に「俺バグ旋風」を巻き起こします!!!

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やぎぬま るい (@hishintai08)

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